
○山ふかみ春ともしらぬ松の戸にたえ/"\かゝる雪のたま水
初春の御哥まことにきとくなり。句ごとに心こも

りて艶なる所あり。しかも哥風情やさしく
つよからぬは女の哥なればといへるさまなり。
たとへば山ふかくとちこもりたる柴菴松
門などには、いつともなく雪のふりつもりて
春ともしらざりしに、さすがに軒のしづく
の折をしりがほに、をとづれたるをあはれとおぼ
ゆるよし也。松の戸をあそばされたる事、誠に
上手のものなり。いつともわかず、四時の移るをも
しらず、深山幽谷にこもりゐたり心をあらは
さむため也。春ともしらぬとつゞけられたるは
ときはのものにて春夏秋冬もしらぬよしなり。
※
